ガス拡散層(GDL)の役割

単セル電池の電極を構成する部材です。ガス拡散層は触媒層とセパレータの間にあり、電気を通す機能や化学反応に必要な空気と水素を効率よく導く機能を持っています。

各種ガス拡散層の基材

固体高分子型燃料電池(PEFC)の場合には、ガス拡散層用基材として黒鉛繊維による多孔質基材がよく用いられます。黒鉛繊維の出発物資としてポリアクリロニトリル(PAN)、ピッチ、レーヨンが代表的に挙げられますが、繊維物性が適しているPAN系が多く用いられています。
基材の形態にはクロス、ペーパー、フェルトなどがありますが、それぞれ性能・コストの面で長所・短所があり、スタック構造やシステム運転条件から最適なものを適宜選定して利用されています。

ガス拡散層用基材への要求

PEFC用ガス拡散層用基材では、燃料電池の効率の観点から下記のが基本性能が求められます。
 ・耐食性の導電性材料であること
 ・反応物質を効率よく拡散させる多孔質であること
また、ガス拡散層用基材はスタックの構成部材の1つでもあるため、構造部材の特性も有する必要があります。
 ・スタッキング圧力に耐える圧縮強度
 ・長時間のスタック運転中に厚さの変化を起こさない低圧縮クリープ性
 ・発電面内で接触抵抗ムラなどを生じさせない厚さの均一性
更に近年では、高分子電解質膜が薄くなってきていることによって、基材表面の炭素繊維が膜にピンホールを空けてしまうという問題への配慮も必要です。
これらの必要特性において、もっとも重要なのは拡散性なのです。

拡散性と水管理について

ガス拡散層の拡散性は水管理を支配する重要な要因であり、拡散性が不適当であると電流が取り出せないなど、燃料電池の性能に大きく影響を与えます。
PEFCの場合、プロトン導電性高分子膜の導電性を安定させるために、反応ガスを加湿して供給したり化学反応によって生成した水を利用します。ガス拡散層は水(水蒸気)の通り道であり、反応系内に必要な水分を適切に吸入・排出させる役割を担っています。ガス拡散層は単に電極基材としてではなく、その拡散性による水管理は燃料電池の性能を左右する重要な要因になります。
例えば、黒鉛はもともと撥水性素材ですが表面は活性が高く容易に親水性に変質します。黒鉛繊維の撥水性が不十分であると水滴がガス拡散層の中に溜まりやすくなるため、生成した水によって電極反応に必要な水素・酸素の拡散を妨げてしまうことがあります(電極基材中が洪水になるという意味で「FLOODFING」と呼ばれる)。
この問題への対策として、通常のガス拡散層基材では撥水性の強い樹脂(導電性材料との混合物が多い)を適度(多孔性が損なわれない程度)に含浸するという撥水化処理を行なっております。

MPLについて

マイクロポーラス層(MPL)とは、PTFEなどの撥水性樹脂とカーボンブラックなどの導電性材料を主成分とするコーティング薄膜です。カーボン層、目止め層などとも呼ばれています。
MPLは燃料電池の運転に必ずしも必要というわけではなく、この層を用いないことも多くありますが、水管理の重要性が高まるにつれ、最近では必須のものとして捉えられて研究・開発が進められております。
MPLは成分比を変えることによって、電解質膜中により多くの水分を保持する働きやMEA中の余分な水分を効率よく排出してFLOODINGを押さえるという働きをします。前者は比較的加湿レベルの低い運転条件のときに有効であり、後者はフル加湿の運転条件のときに有効です。

ガス拡散層とMPLの今後

ガス拡散層は黒鉛繊維を元に大量生産される構造物であり、その性質を細かく制御して多様な燃料電池運転状況に対応させるのは困難です。一方MPLはコーティング膜であるため、コーティング用のドープを変更するだけで対応が比較的容易になります。ガス拡散基材に合わせてMPLも最適化することで、性能・コストの両方で満足のいく製品に仕上げることが重要です。